「不動産投資で節税するなら、4年で償却できる築古木造が良い」
投資家の間でまことしやかに囁かれるこの定説。不動産投資を検討される高年収の皆様であれば、一度は耳にしたことがあるかもしれません。
確かに、計算上の節税インパクトは魅力的です。しかし、そこには「融資期間の短さ」や「5年目以降の急激な税負担増」といったリスクが潜んでいることをご存じでしょうか?
不動産投資の節税効果(損益通算)の仕組み自体は理解していても、「具体的にどの構造(木造・RC)の、どの築年数の物件を選べば、自分の資産状況にベストなのか」という戦略まで落とし込めている方は多くありません。
この記事では、不動産投資の節税額を決定づける「減価償却の計算と戦略」に特化して解説します。 巷で人気の「築古4年償却」の落とし穴と、実は高年収層の資産形成においてバランスの取れた「新築木造(22年償却)」の優位性を、具体的なシミュレーション視点から紐解きます。
不動産投資でなぜ税金が戻ってくるのか?という「損益通算」の基本的な仕組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。
リンク:なぜ不動産投資は節税につながるのか?資産を守る「減価償却」と「損益通算」の仕組みを解説
【この記事はこんな人におすすめ】
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【目次】
- 節税額を決める2大要素:「建物比率」と「法定耐用年数」
- なぜ人気?「築古木造(4年償却)」の計算ロジックと隠れたリスク
- 王道はバランス重視。「新築木造(22年)」が選ばれる戦略的理由
- 知らないと危険!「デッドクロス」の発生と回避シミュレーション
- まとめ:あなたの「投資目的」と「出口戦略」に合わせた物件選びを
Contents
節税額を決める2大要素:「建物比率」と「法定耐用年数」
不動産投資における節税の主役は、現金の支出を伴わない経費である「減価償却費」です。 この金額が大きければ大きいほど、不動産所得の赤字幅が大きくなり、本業の給与所得と相殺(損益通算)した際の節税効果が高まります。
なお、不動産投資には今回解説する「所得税・住民税」以外にも、取得時や売却時にかかる税金が存在します。 投資全体にかかる税金の種類や支払いのタイミングなど、全体像を把握したい方は、まず以下の記事をご覧ください。
リンク:【不動産投資の税金 完全ガイド】サラリーマン投資家が知るべき税金の種類と節税の仕組み。
では、減価償却費はどうやって決まるのでしょうか? ポイントは2つです。
① 建物比率が高いほど有利
減価償却ができるのは「建物」と「設備」のみで、「土地」は対象外です。 つまり、同じ1億円の物件でも、都心の一等地(土地値が高い)よりは、郊外の一棟アパートなど「建物価格の割合(建物比率)」が高い物件の方が、経費計上できる総額は大きくなります。
② 構造で決まる「法定耐用年数」
建物価格を「何年かけて経費にするか」を決めるのが、国が定めた法定耐用年数です。
| 構造 | 法定耐用年数 | 特徴 |
| 木造・軽量鉄骨 | 22年 | 償却期間が適度に短く、単年の経費額を確保しやすい |
| 重量鉄骨造 | 34年 | 木造とRCの中間的な立ち位置 |
| RC造(鉄筋コンクリート) | 47年 | 償却期間が長く、長期にわたり薄く広く経費計上する |
現在、個人の不動産投資では原則として「定額法」(毎年一定額を経費にする)で計算します。 ざっくり言えば、「建物価格 ÷ 耐用年数 *= 1年あたりの減価償却費」です。分母(年数)が小さいほど、1年あたりの経費(分子)は大きくなります。
*実際には、建物本体と電気設備・給排水設備などの「諸設備」を分けて計算する場合があり、それぞれ耐用年数が異なります。
なぜ人気?「築古木造(4年償却)」の計算ロジックと隠れたリスク
ここで、多くの投資家が気にする「築古木造」のカラクリを解説します。 中古物件の場合、法定耐用年数ではなく、以下の計算式(簡便法)で耐用年数を算出します。
(法定耐用年数 - 経過年数)+(経過年数 × 0.2) ※1年未満切り捨て、最低2年
「4年」の正体
法定耐用年数(22年)をすべて経過した木造アパートの場合、
(22 – 22) + (22 × 0.2) = 4.4年
端数を切り捨てて「4年」となります。 これにより、建物価格をわずか4分割して経費化できるため、単年度の減価償却費を大きく計上できるため、高い節税効果が見込めます。
しかし、リスクもまた「爆発的」
「4年償却」は諸刃の剣です。以下のデメリットを許容できるか、慎重な判断が必要です。
- 融資期間が伸びない
耐用年数切れの物件には、金融機関も長期ローンを出しづらい傾向があります。返済期間が短くなれば、毎月の返済額が高騰し、キャッシュフローが悪化します。 - 5年目の税負担急増
4年で経費を使い切るため、5年目からは減価償却費がゼロになります。その結果、帳簿上の利益が急増し、納税額が大幅に増える可能性があるため、事前の資金準備が不可欠です。 - 修繕・空室リスク
築22年超の物件は、給排水管や外壁などの大規模修繕リスクに加え、新築に比べて客付け(入居者募集)に苦戦する可能性があります。
新築と中古のメリット・デメリットの比較については、以下の記事でも詳しく解説しています。
リンク:【不動産投資の永遠のテーマ】新築 vs 中古、あなたに合うのはどっち?メリット・デメリットを徹底比較!
王道はバランス重視。「新築木造(22年)」が選ばれる戦略的理由
短期決戦型の築古に対し、長期的な資産形成を目指す高年収層の間で選ばれているのが「新築木造(22年償却)」です。 一見、節税のスピード感は築古に劣るように見えますが、実は「融資」と「償却」のバランスにおいて、新築木造には大きな優位性があります。
① 融資期間と償却期間の「黄金のバランス」
新築木造の最大のメリットは、銀行から30年~35年の長期融資を引きやすい点です。 「減価償却期間(22年)」と「融資期間(30年以上)」が近いため、「経費(減価償却)」と「返済(元金減少)」のペースが乖離しにくいのです。これにより、無理のないキャッシュフローを維持しながら、20年以上にわたって安定した節税効果を享受できます。
② 現役期間をカバーするロングスパンの節税
40代の方が購入した場合、定年退職を迎える60代まで、ほぼ現役期間を通して減価償却費を計上し続けられます。 「ある年は節税できたが、翌年は大増税」といった乱高下がなく、ライフプランの見通しが立てやすいのが特徴です。
RC造(47年)との違いは?
RC造は資産価値が長く続きますが、償却期間が47年と長いため、単年度の節税効果は薄くなります。「孫の代まで残す」ならRCですが、「ご自身の現役時代の所得税圧縮」を優先するなら、償却スピードの速い木造の方が効率的と言えるでしょう。
知らないと危険!「デッドクロス」の発生と回避シミュレーション
減価償却を語る上で避けて通れないのが「デッドクロス」です。
デッドクロスとは?
ローンの元金返済額(経費にならない支出)が、減価償却費(現金の出ない経費)を上回ってしまう現象のこと。 これが起きると、「帳簿上は黒字で税金を取られるのに、手元にお金が残らない」という、いわゆる黒字倒産に近い状態になります。
- 築古(4年償却)の場合: 5年目に償却費がなくなるため、ローンの返済状況によっては早期にデッドクロスが発生し、資金繰りが厳しくなるリスクがあります。
- 新築の場合: 22年間は償却費があるため、デッドクロスの発生を先送りにできます。
デッドクロスへの対策(出口戦略)
デッドクロスを回避・軽減するためには、以下の対策をあらかじめ計画に組み込む必要があります。
- 売却(出口戦略): デッドクロスが近づいたタイミング、あるいは長期譲渡所得(所有期間5年超)の適用となったタイミングで売却し、利益を確定させます。新築・築浅物件は流動性が高く、売却しやすいメリットがあります。
- 繰り上げ返済: 節税で浮いたキャッシュをプールしておき、繰り上げ返済を行って毎月の元金返済額を圧縮します。
- 買い増し: 別の物件を新たに購入し、新しい減価償却費を作ることで全体のバランスを調整します。
デッドクロスを回避するには、日々の帳簿付けと正確な確定申告によるキャッシュフロー管理が不可欠です。
「青色申告」を活用して手残りを増やす具体的な申告手続きについては、以下の記事で詳しく解説しています。
リンク:サラリーマン大家の「確定申告」戦略。青色申告65万円控除のカギを握る「事業的規模(5棟10室)」とは?
まとめ:あなたの「投資目的」と「出口戦略」に合わせた物件選びを
不動産投資における物件選びは、単なる「好み」ではなく、数字に基づいた「戦略」です。
- 短期的なインパクト重視だがリスクも高いのが、築古木造(4年)。
- 長期的な安定とキャッシュフロー重視なのが、新築木造(22年)。
- 超長期の資産保全重視なのが、RC造(47年)。
特に、本業が多忙で、手間をかけずに長期的な資産形成を行いたい高年収層の皆様には、新築の木造一棟アパートが、節税効果とリスク管理のバランスにおいて最適解となるケースが多いのです。
「自分の年収だと、どれくらい税金が戻ってくるのか?」
「具体的なシミュレーションで、手残りの現金を比較したい」
そうお考えの方は、ぜひ個別にお問い合わせください。投資目的や資産状況に合わせ、物件の収益性や出口戦略を見据えた投資プランをご提案いたします。
※具体的な税務シミュレーションや確定申告の詳細については、提携の税理士等と連携して確認を行う必要があります。
【免責事項】 本記事における減価償却や節税の解説は、一般的な税制に基づくシミュレーションであり、実際の納税額や節税効果を保証するものではありません 。個別の税務判断については、必ず税理士または所轄の税務署にご相談ください 。



